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凸凹二曲線による株価下落予測の検証

 

これまで、ソーネット教授のドラゴン・キング理論によるドラゴン曲線(下に 凸 の d 曲線)と、確率微分方程式から導かれる株価の確率分布曲線(上に 凸 の v 曲線)に組み合わせによって、株価急落の予測を試みてきました。その道のりは以下のとおりです。

2021年2月15日 株価暴落前の数学的兆候 – ソーネット教授のドラゴン・キング理論(前編)

2021年2月15日 株価暴落前の数学的兆候 – ソーネット教授のドラゴン・キング理論(後編)

2021年3月14日 ドラゴン・キング理論で予測した「急落」は起こったか?

2021年3月21日 株価の急落を数理的に予測する方法 – 確率分布とべき乗則が織りなすふたつの曲線の意味

2021年3月24日 「数理的に予測した株価急落」の検証

2021年6月2日   スモール・ドラゴンの出現 – 数理的に予測した株価の下落とその検証

本日は2023年8月25日ですから、最後のブログから二年が経過しました。実はその間に d 曲線と v 曲線は何回か交差しています。本日のテーマは、過去二年間に起こった二本の曲線の「交差」とその後の推移を検証することです。果たして d 曲線と v 曲線が交差したら、株価は急落したのでしょうか?

 

まずは、2021年3月21日付のブログで「ドラゴン出現」と紹介した三菱フィナンシャルグループの株価の動きを振り返り、そもそも「d 曲線」と「v 曲線」が何かを復習します。

 

図1 三菱フィナンシャルグループ(MUFG)の 2021 年1月~3月の(日次終値)推移

グレーの実線が確率微分方程式から得られる確率分布(v 曲線)、緑の破線がソーネット教授のドラゴン (d) 曲線。
それぞれの曲線の描き方は 2021年3月21日付のブログ「株価の急落を数理的に予測する方法 – 確立分布とべき乗則が織りなすふたつの曲線の意味」を参照してください。
数式は、d 曲線が xt=A+B(tc-T)m
上図では、A=740, B=-360, tc=2021.4, m=0.3,
v 曲線が xt=x0EXP((r-v2/2)t+□v√t)
上図では、x0=501, ,r=4.4×10-4, v=1.6×10-2
□の中に入る数字がゆらぎ度合いを示す係数(上図の括弧内の数字)で、およそ七割の確率で±1.0内を動きます。
詳細は2023年2月15日付のブログ「株価の「ゆらぎ」を数値化する方法」を参照してください。

 

 

2021年1月14日から同年3月19日までの推移に注目します。前半の動きは上に凸の v 曲線(グレー)で近似されますが、後半の動きは下に凸の d 曲線(緑)によってよりよく近似されます。d 曲線は時間の経過とともにその傾斜角度が急激に大きくなる性格をもっていますので、株価が d 曲線で近似できるということは上昇度合いが加速していることを意味します。それは一種のバブルであり、いずれはじけて急落するであろう、というのがソーネット教授の理論です。

 

では、実際にはどうであったか?図2をご覧ください。

 

図2 三菱フィナンシャルグループ(MUFG) の 2021 年の(日次終値)推移

2021年は1/29~3/19の間と、7/20~9/28の間に、v 曲線と d 曲線が交差している。

 

2021年3月19日からの推移は以下のとおりでした。

2021年3月19日 659.40

2021年3月22日 653.90  △0.834%

2021年3月23日 632.70  △3.242%

2021年3月24日 604.50  △4.457%

三営業日累計     △8.326%

これを急落と捉えるかどうかですが、少なくとも 2021年全体の推移の一部としてみたとき、さほど目立った下落とも思えません。時間軸を谷底の 4/22 (570.40) まで延ばしたとしても3/19日からの下落率は 13.5% です。そうなると、

① 3/19→3/24 (3営業日)に発生した 8.3% の下落はそもそもドラゴン出現による急落といえるのか?

② 3/19→4/22 (24営業日)に発生した 13.5% の下落は、ドラゴン出現によるものなのか、そうでないのか?下落のタイムスパンはそもそもどの程度で評価するのが妥当なのか?

③ 3/19→4/22(24営業日)の推移は -2.0v の v 曲線で近似されるのだから、通常の下降トレンドに過ぎないのではないか?

などなど、いろいろな疑問が湧きおこります。ちなみに、この年は、7月20日から9月28日の間に交差がもう一度発生しています。そして、9月28日のピークから10月4日までの4営業日で 8.2% 下落しました。ピークからの数日スパンでみれば、一回目の下落率とほぼ同じで、その後の下降トレンドが  v 曲線で近似できるのも一回目と同じです。

 

では、もう少し先に進んでみましょう。図3 は 翌年、2022年の推移です。

 

図3 三菱フィナンシャルグループ (MUFG) の 2022 年(日次終値)推移

2022年は3/8~3/23の間と、10/13~12/27の間に、v 曲線と d 曲線が交差している。

 

この年も 3/8 → 3/23 と 10/13 → 12/27 の間に v 曲線と d 曲線が交差しています。前者は 3/23 をピークとして下降トレンドに入っていますが、急落といえるでしょうか?ピーク後のトレンドは -1.0V の v 曲線で近似できています。一方、後者の方は谷底の10/13から12/27のピークまで、なんと四割も上昇していて、d 曲線がその動きを見事に近似していますので、典型的なドラゴン出現パターンのようにみえます。では、実際はどうであったか?2023 年の動きをみてみましょう。

 

図4 三菱フィナンシャルグループ (MUFG) の 2023 年(日次終値)推移

予測に反し、ドラゴンは現れませんでした。2023年 1/4 からの動きは、 3/9 まで +0.6v の v 曲線で近似できます。さらに興味深いのは、翌日の 3/10 に何の前触れもなく急落したことです。そして、 3/14 に底値をつけたのち、すぐに上昇トレンドに戻っています。3/14 を始点とする+0.5v の v 曲線と、d 曲線は早々に交差して、その後の動きは d 曲線で近似できます。d 曲線の時間軸を二回延長しましたが、本日現在、急落には至っていません。

ところで、昨年末から本年3月までの動きにもう一度注目しましょう。 d 曲線によって押し上げられた株価が急落することなく、上方へ遷移しています。その遷移状態が1/4~3/9まで続いたあと、3/10にストンと下方へ遷移しています。原子核を周る電子がエネルギーの受渡を介してその軌道を下から上、上から下へと遷移するのに似ています。「株価」と「量子」のおもしろい共通点にご興味のある方は、2022年10月30日付けブログをご覧ください。

 

では、最後に時間軸をぐっと延ばして2021年1月から2023年8月までの動きをみます。

 

図5 三菱フィナンシャルグループ (MUFG) の2021年1月~2023年8月(日次終値)推移

 

時間軸を延ばすことによって現れる v 曲線と d 曲線の交差
d 曲線のパラメータ:A=1,600, B=-760, tc=2023.95, m=0.3
v 曲線のパラメータ:x0=565, r=4.4×10-4, v=1.6×10-2

 

時間軸を延ばせば延ばすほど株価の動きは v 曲線で説明できるようになります。逆にいうと d 曲線の出現頻度が下がります。過去二年半(図2~図4)で五回現れた v 曲線と d 曲線の交差が、図5では一回にまとまっています。先に、述べた株価の上下遷移現象もぐっとズームアウトした視点で眺めると、一本の d 曲線の中に埋もれてしまいます。これは非常に大事なポイントです。

ちなみに、図6 は S&P500 の1985年から1987年の動きです。二年間で 交差は一回、エネルギーをたっぷり貯めこんだあとに発生したのがブラック・マンデーです。

図6 ブラックマンデー前後の S&P500

d 曲線のパラメータ:A=405, B=-167, tc=1987.8, m=0.35
v 曲線のパラメータ:x0=165, r=4.2×10-4, v=1.6×10-2
 

つづく

 

 

 

 

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