2024年12月16日付のブログ「時系列分析の社会現象への応用 – 日経平均」で、急落した日経平均のV字回復が、以下の数式でうまく説明できることを示しました。
$$x_{t}=αx_{t-1}+µ+ε_{t}\tag{1}$$
たとえば、この式を事業に当てはめると、xt は時間 t における売上、 xt-1 はそのひとつ前の売上とみなすことができます。α は成長係数、µ は定数。εt はノイズ項です。驚くべきことに、こんな単純な数式が事業経営者を励ましたり示唆を与えたりするのです。詳細は、2021年9月3日付ブログ「コロナ禍の売上急落の不安を払拭する超簡単な数式」、 同年9月11日付のブログ「継続は力なりを数式で理解する」、そして同年9月13日付のブログ「経営者が目線を上げる、という数理的意味」をご覧ください。
前回のブログでは、この式を株価指数に当てはめました。初期値 Xo を2024年1月4日の日経平均株価の終値 33,288 とし、パラメーターの α を 0.9、μ を 3,900 とし、ノイズ εt を平均 =0、標準偏差=400 の確率正規分布としました。株価が急落した2024年8月1日、2日、5日に実際に発生したノイズ(対前日比、-2.0%、-5.4%、-12.3%) を入れてシミュレーションをした中に、図1のような波形(オレンジの破線)が現れました。
図1
青の実線が日経平均の推移。オレンジの破線が式(1)において初期値 x0=33,288(2024年1月4日の終値)、α=0.9、μ=3,900、ノイズεt を平均 0, 標準偏差400の確率正規分布としたときの波形の一例(株価が急落した2024年8月1日、2日、5日のみに対前日比-2.0%、-5.4%、-12.3%のノイズを入れた。)
では、日本以外の国ではどうだったでしょうか?図2は米国(S&P 500)、日本(Nikkei 225)、上海(総合)、香港(ハンセン)、ドイツ(DAX)、フランス(CAC 40)、イギリス(FTSE100)の計七か所の株価指数の推移を 2024年1月4日の終値を 1.0 として表示したものです。
図2
2024年1月4日の世界の計七か所の株価指数を1.0としたときの推移。赤の矢印が図1に対応する急落からのV字回復ポイント。
(破線の途切れは非取引日によるもの)
赤の矢印ポイント(2024年8月5~6日)が楔を打ち込まれたようにV字に折れ曲がっています。つまり、式(1)のパラメーター α と μ を調整し、急落時にのみ実際のノイズを入力すれば図1同様、各国の株価指数のV字回復を再現することができます。ちなみに上海(緑の線)は例外で、同年5月からの漸減傾向が継続し、9月に回復しています。
では、個別株ではどうでしょうか?図3をご覧ください。
図3
2024年1月4日の終値=1.0としたときの日本国内五銘柄の株価推移。赤の矢印が急落からのV字回復ポイント。
同じ場所にV字回復ポイントがみてとれます。当然ですが、個別株の値動きは個別事由に左右されますので、急落や回復の度合いに差があります。それらを平均化したものが TOPIX(緑)で全体の動きはなだらかになりますが、それでも急落からの回復のV字ポイントがしっかりと見て取れます。
では、長期的にはどうでしょうか。もう一度世界の株価指数に戻ります。図4は2020年8月3日の終値を 1.0 にそろえた推移です。なんども急落と回復のV字回復を繰り返していることがわかります。
図4
世界七か所の株価指数の推移(2020年8月3日=1.0)。白い矢印が何度も繰り返される急落とV字回復をを示している。
つづく
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