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一銘柄でリスク分散投資をする方法 – パート3

2020年6月27日

はじめに

 パート1では最も安全な投資手法である米国の株式指数(S&P500)連動型ETFをバイ&ホールド(買っては保持)する方法をご紹介しました。そして、長期的なバイ&ホールドのデメリットを補う投資手法として一銘柄で短期的に利益を出す方法を探りました。パート2ではその手法に以下「六つ」の質問を投げかけました。

  • 銘柄は何を基準に選ぶのか?
  • ポジションをいくつもつのが妥当なのか?
  • ポジションの間隔はどの程度が妥当か?
  • 含み損は発生するのか?
  • 利益をどのタイミングで実現するのか?
  • 株価が暴落してもこの手法は機能するのか?

そしていよいよ、このパート3でそれらの質問に実証的な回答を出し、このテーマの締めくくりとします。

模擬トレードによる検証

パート1とパート2を読まれた方は上記のどれか一つの質問に答えるためには他の質問にも答える必要があることにお気づきのことと思います。よって、実際の銘柄で模擬トレードをしながら総合的に検証します。まず、初期条件を以下のとおりに設定します。

  • 取引銘柄:ブリヂストン(コード5108)
  • 取引開始日:2018年5月1日
  • 取引値:終値
  • 手持ち資金:8百万円
  • 一ポジション:1000株
  • 最大ポジション数:5本
  • ポジション間隔:3%以上
  • 決済のタイミング:対前日で+2%以上の利益を確保できるとき
  • ポジション・バランス:条件⑥と⑦を満たしている状態で、「買い」と「売り」のどちらのポジションでも持てるときはバランスがよいを選ぶ。たとえば「買い」と「売り」の割合が1:4ではなく2:3になるようにする。
  • 強制決済:六か月後に強制的に含み損が現実損となる(制度信用ルール)。

同社の2016年1月以降の平均変化率(対前日)は上昇が0.999%、下降が0.977%で、TOPIXの過去三年間の平均(上昇0.712%、下降が0.751%)を上回っています。(対前日変化率についての解説はパート2参照。)

2018年5月1日(取引開始日)の終値は4,553円。模擬トレードはここで「買い」と「売り」の両ポジションを同時に持って模擬トレードを開始します。信用取引は三倍までレバレッジが効きますので手持ち資金が8万円であれば24百万円までポジションが持てます。一株がおよそ4,500円であれば持てるポジションの数は最大で五つです。{24百万円÷(4500円x1000株)=5.3} ポジションの間隔はとりあえず3%とします。パート2でみたように一日平均±1%動く銘柄であっても3%移動する日数は最短で三日、長いときは一ヵ月かかります。決済のタイミングは平均変化率の二倍以上の粗利益(2%)が確保できるときとします。

以上をプログラミングしたうえで2020年5月末までの取引をコンピューターで計算した結果が以下のとおりです。

a. 決済利益:6,846,500円

b. 通常決済回数:56回(決済の間隔は0日平均)

c. 強制決済額(実現損):3,542,000円

d. 強制決済回数:6回

e. 含み損(2020年5月29日時点の未実現損):2,238,500円

f. 強制決済損、及び含み損差引後利益:1,066,000円(=a-c-e)

ではこの期間、ブリヂストン株の実際の動きはどうだったでしょうか。TOPIXとの比較でみていきます。図1をご覧ください。青線がブリヂストン(右軸)、赤線がTOPIX(左軸)です。ブリヂストンは2019年11月のピークから3月の底値まで35.8%の下落し、TOPIXは2020年2月のピークから3月の底値まで29.2%下落しています。TOPIXと同じ期間ではブリヂストンの下落は21.7%です。ブリヂストンもTOPIXも底値を打った日は同じで2020年3月16日でした。1987年10月のブラックマンデーは直前のピークから底値までの14日間で31.5%下落しました。2008年8月のリーマンショックでは7か月かけて48.2%下落していますので、今回の株価の急落はこれらの「大暴落」に肩を並べる規模であるといえます。

図1

コンピューターが行った取引の様子を少し覗いてみます。表1をご覧ください。取引は下から上へと行われています。青色が「売り」ポジション、朱色が「買い」ポジションです。各ポジションの横に対前日の変化率(%)が出力されています。変化率が黒字のところは「含み益」が出ていること、赤字のところは「含み損」が出ていることを示しています。右端の欄が粗利益(税諸経費差引前の利益)、通常決済の回数(黒色の数字)、強制決済の額(赤枠の数字)と回数(赤色の数字)です。

表1

中略

それぞれのポジションで粗利益率が2%以上になった時点で決済されているのがわかります。また、ポジションが空いたらすぐにその隙間を新しいポジションが埋めていることもわかります。ポジションの数も最大五本に納まっていおり、「買い」と「売り」のバランスも取れています。

市場、他社とのパフォーマンス比較

ここでブリヂストンのパフォーマンスを市場全体とその他の個別銘柄のそれとを比較します。日本市場を代表してTOPIX連動型ETF(1306)、米国市場を代表してS&P500連動型ETF(1517)、個別銘柄では日産(7201)、資生堂(4911)を選びます。まず過去二年間でこれら五銘柄の値動きがどうであったかを2018年5月1日の株価を100として確認します。図1をご覧ください。

図1

二年後の株価水準はS&P500以外の日本銘柄はすべてマイナスです。では、ここでブリヂストンと全く同じ条件でそれぞれの銘柄の模擬トレードを行ったときのパフォーマンスを比較します。表1をご覧ください。

表1

銘柄別の決済回数と平均売買益、強制決済回数と平均損金額は表2のとおりです。

表2

決済利益率と損益の相関関係

ここで、ポジション間隔を3%に固定して、決済利益率、決済回数と損益の相関関係をみます。表3をご覧ください。たとえば、一行目の決済利益率0.5%ですと、ポジションの含み益が0.5%を超えたときに決済したときの売買益が7,326,500円、決済回数が130回、その平均売買益は一回当たり5万6千円であったことを示しています。強制決済には5回遭遇し、一回当たり平均59万円の損が実現しています。二年後の5月末時点での含み損は2.7百万円、税諸経費差引前利益は売買益の7.3百万円から強制決済損の2.9百万円と含み損の2.7百万円を差し引いた1.6百万円であることが分かります。投資額が8百万円ですから2年間の投資リターン(税金諸経費差引前)は20.2%です。

表3

決済利益率を上げると決済あたりの売買益は増えますが、決済回数は指数関数的に減少します(図2)。

図2

売買益は図3のとおり決済利益率が高い方が低くなる傾向があります。

図3

売買益 = 一決済当たりの平均売買益 x 決済回数 

ですが、決済あたりの売買益が線形減少なのに対して、決済回数が指数減少するため、売買益へのインパクトは決済回数の方が大きいことがわかります。

次に売買益と含み損の関係をみます。図4をご覧ください。含み損は決済利益率が高くなるにつれて減少します。

図4

図5は決済利益別の強制決済額の分布です。特に相関関係はなさそうです。

図5

以上より、売買益から強制決済損と含み損を差し引いた利益(税諸経費差引前)とインフルエンサーである決済回数の相関関係は図6のようになります

図6

ここで決済回数をさらに多くするためにポジション間隔を半分の1.5%にしてみます。パート2でポジションの間隔が狭いとポジションをすぐに使い果たしてしまうという話をしました。新しいポジションが持てないと強制決済に引っかかる可能性が高くなることが予想されますが、間隔が狭いため決済されやすく、ポジションも空きますから意外と強制決済にも引っかからない可能性もありそうです。では早速計算をしてみます。表4をご覧ください。

表4

予想通り決済回数が増え売買益はさらに増加していますが、強制決済の回数は増えていません。含み損にも大きな変化はありません。

以上のことは、決済利益率もポジション間隔も低くしながら小まめに決済を繰り返した方がよりリターンが大きくなるということを示唆しています。では次に、ここまでの分析で考慮してこなかった税金と諸経費について述べます。

税金と諸経費

税金は所得税と地方税で売買益に対して、合計で20.3%かかります。諸経費とは証券会社へ支払う委託手数料とその消費税、金利(買いポジションで発生)、貸株料(売りポジションで発生)等のことです。各経費はSBI証券(制度信用)の場合、以下のとおりです(2020年6月現在)。

委託手数料:一注文当たり385円(約定代金>50万円の場合、消費税込み)。ポジションを持ったときと決済したときにかかります。

買いポジション:金利 2.8%(年率)

売りポジション:貸株料率 1.15%(年率)

よって、もし一株4,500円の銘柄の買いポジションを千株で半年間持ち続けたとすると金利は63,000円(4,500円x1,000株x2.8% x 6/12ヵ月)になります。同様に売りポジションの場合、貸株料は25,875円(4,500 x 1000株 x 1.15% x 6/12ヵ月)です。仮に各ポジションの平均保持日数を10日とすると、表4のポジション間隔1.5%、決済利益率0.5%で発生する諸経費(2018年5月1日~2020年5月29日)は以下のとおりとなります。

手数料:110,110円(385円x二約定 x 143回)

金利:315,000円(二年間の平均株価4,136円 x 千株 x 買いポジション保持日数1,245日 x 2.8%)

貸株料:129,370円(二年間の平均株価4,500円x千株x売りポジション保持日数1,328日x1.15%)

諸経費合計:678,205円・・・①

税金(所得税+地方税):1,555,690円(表4の売買益7,663,500円 x 20.3%)・・・②

税諸経費合計 ①+②:2,233,895円・・・③(対投資額:27.9%)

表4より、税諸経費差引前の利益は 2,436,000円ですから、実質(ネット)利益はそこから③を差し引いた202,105円となります。総投資額が8百万円に対する二年間の実質投資リターンは2.5%です。

決済回数が増加すると売買益も増加しますが、諸経費も増加します。一方、金利と貸株料はポジションの規模を縮小したり保持期間を短くするなどすれば縮小できますが、その調整自体に損失を伴います。これらはすべてトレードオフに関係にあります。

含み損について

含み損は絶えず変化します。ここまでの売買益の計算には含み損を含めてきましたが、含み損はあくまで「含み」であって実現された損ではなく、明日以降の株価によってまた変化し続けるものです。手持ち資金額によって持てるポジションには限度があり、各ポジションで発生する含み損は、ポジションの保有期間に株価がとりうる最大値と最小値の差に株数を乗じたものが最大となります。今年の三月に発生した暴落は十年に一度くらいの頻度でしか起こらないものでその落差は30~40%です。たとえば4,500円だった株価が2,900円まで35%下がったとして、一ポジションで発生する含み損の最大値は1.6百万円{(4,500円 – 2,900円)x 1000株}です。

不幸にも突発的な資金需要が暴落と重なったときでさえも含み損の最大値を把握しておけば手元に残る資金の最小値が分かります。ちなみに、私自身、今年の暴落時に経験した含み損の最大値は本年4月3日に記録した3.4百万円でしたが、その後の強制決済を経て6月27日現在、1百万円を切っています。

おわりに

以上で「一銘柄でリスク分散投資をする方法」のエッセンスはすべてお伝えしました。一銘柄でリスクを分散する」という意味もここまでお付き合いいたいだいた方々にはご理解いただけたことと思います。我々一般人は株に手を出すべきではないとよく言われます。パート1で述べたとおり株価を予測することはプロでさえ不可能です。だからこそ、一定のルールに従って株価が上がっても差下がっても淡々と取引を行い、ある程度のパフォーマンスが期待できたらそれほどありがたいことはありません。引き続き研究と実践を続けて、また新たな発見をみなさんにご報告したいと思います。

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